会計システムは,会計プロセス,会計データ,コントロール(内部統制)および情報技術から構成されます。ここでは,会計プロセスについて,そのプロセスを9つに分けて革新の余地について以下検討していきます。
はじめに,会計プロセスの中心である仕訳帳と総勘定元帳の進化をみてみましょう。
小さな会社では,仕訳帳は経理部で記帳されています。大会社では,仕訳は可能な限り発生部門での入力に移行していきます。
たとえば,経費の精算は各部門でシステムに直接入力し,経理部には自動仕訳で計上されます。売上・仕入は,販売/購買システムから自動仕訳されます。
このように,会計プロセスの進化に伴い,仕訳入力は分散化の方向に向かいます。
情報技術の面から見ると,仕訳分散化の,一つの流れがワークフローツールであり,もう一つの流れがERP(統合パッケージ)です。
ワークフローツールは現在でも出張費用の精算等に使われており,安価で使いやすいツールがあります。ワークフローツールは,他のパソコン用パッケージと組み合せ易く,画面もインターネットのブラウザー(Web)が使え,操作性も悪くありません。
ERPは,会計以外のシステムと統合されていますので,他のシステムからのトランザクションは自動仕訳で会計システムに送られます。
このような分散化の結果として経理部での仕訳は,決算仕訳等一部に限定されてきます。
一方,勘定元帳をみてみると,現実の会社で手書きで,会計帳簿をつけている会社はほとんどありません。総勘定元帳の一取引をクリックすれば,仕訳画面に移るのは,今日の会計パッケージの一般的機能です。転記という概念は,経理部のユーザーにとっては死語に近い言葉です。ERPを使っていれば,仕訳画面から更に,受注や出荷画面に跳んでいくでしょう(ドリルスルー機能)。
会計データがこのように他のトランザクションデータと密接に関係付けられてくるようになると,会計のデータと一般の取引データの区別はどこにあるのか
わからなくなってきます。
これからの企業では,勘定科目の集合体である総勘定元帳も,組織別,製品別等に細分し詳細な財務分析が行われるようになると思われます。勘定科目には伝統的会計科目以外の属性をもち,会計データは一般取引データの部分集合となっていきます。コンピュータのもつドリルスルー機能によって会計システムという言葉自体が一般取引システムのパラサイト・システム化していくのかも知れません。
国際会計基準として,時価主義,業績の適正表示,連結決算がうたわれ,日本の企業も国際会計基準あるいはアメリカ会計基準をベースとした会計処理への変更を迫られています。日本の会計基準自体が国際会計基準に適ったものに変更されるためです。変更が予想される会計処理の主なものとして,キャッシュフロー計算書の作成,金融商品の時価評価,退職金の年金数理計算,税効果会計の採用等があります。
会計基準の時価主義への大きな変更は,確定決算主義を背景にした日本の税務会計にまで影響を及ぼしそうです。
これを機に,財務諸表を,税務や営業報告書のための外部報告目的から,経営の役に立つ業績測定システムの一環として捉え直したら如何でしょうか。
連結財務諸表,セグメント別財務諸表,キャッシュフロー計算書を利用して,意思決定に役立つ内部報告システムをつくり,そこからの派生として外部報告財務諸表が作成されるのが理想です。
財務諸表のひとつであるキャッシュフロー計算書は,従来の会計文法に縛られた発生主義会計から経済価値を中心にしたキャッシュフロー経営への道を開きます。経営にとって重要なテーマのひとつは,リスクと時間であり,これらを扱う概念は会計理論より,むしろ経済理論にあります。キャッシュ概念はこれらの理論を会計に取り込むための手段となります。キャッシュ概念は,皆様が想像される以上に奥が深い概念です。
EVAは,アメリカでは既にアニュアルレポートに表示されており,EVAには,経済的価値の概念,時間の概念が(利子として)はいっています。将来は,金融工学に代表されるようなリスクの概念も会計に導入されていくでしょう。
予算と実績の比較管理が十分行なわれていない企業が上場会社でもかなりあります。予算と戦略の関連性がうまくとれていない会社も沢山あります。
キャッシュフロー計算書は投資計画と損益計算書予算の橋渡しとなります。投資計画を策定する時,将来キャッシュフロー計算書をつくり,それを逆展開することで,将来損益計算書と貸借対照表と投資計画を結合することができます。貸借対照表を中心に会計利益の分析としての損益計算書とキャッシュの分析としてのキャッシュフロー計算書を組み合わせて利益と事業価値の管理をしていく道が開けるでしょう。キャッシュフロー計算書による予算管理では,期間利益や期間の成果が見えにくいと考える企業には,EVAを使う方法もあります。EVAは,キャッシュをベースとした会計期間に応じた事業価値を測定する手法です。
将来キャッシュフロー計算書とBS,PLを同時に作成する手法は,M&Aの企業評価にも使われます。こうして事業価値を高めるひとつの選択肢としてM&Aが位置付けられます。
予算とは,本来,未来のコントロールのための技法なのでしょう。未来のリスクは,一面では数学的解析で評価されますが,もうひとつは,意思力でコントロールされる面があります。
予算は,未来の予測と対応を計数的に記述したステートメントとして活用できるはずです。この意味では,経営環境の変化に柔軟に対応できるような,シナリオ・ベースの予算が有効です。
又,予算を組織のコントロールとして活用するためには,経営の指標が必要です。業務活動をコントロールするためには,行動に即した具体的な指標が望ましいといえます。この点からは,予算は,会計数値のみでなく,バランスト・スコアカードのように,顧客,内部プロセス,革新の視点を取り入れたバランスの取れた指標で行なうという道もあります。
予算管理は,予算実績管理をしてはじめて意味をもちます。この予算実績管理にキャッシュフローを取り込むことができると会計管理の幅が広がります。しかし,実績との比較管理という点では,予算実績比較がオールマイティーなのではなく,生産性等についてはむしろ前年対比の伸び率の方がよい指標となるケースも多いでしょう。伸び率は努力の成果を素直に表す点で,恣意的な予算との意味のない比較より望ましいことがあります。
金融制度の規制緩和等により,銀行の資金相殺機能の企業内取り込みが可能となってきました。キャッシュ・マネジメントにおいて,日本は,銀行振込と月次締めというしくみにより,アメリカの煩雑な個別小切手決済という無駄なプロセスを回避してきました。
しかし,経営を取り巻く環境は変化していきます。
銀行振込と月次締めというバッチ処理のしくみは,小切手というリアルタイム処理のしくみより優位に立つ保証はなくなってきます。情報システムは,個別決済,リアルタイム決済の煩雑さをエレクトリック・コマースという情報技術で解消し,バッチ処理を過去のものとする可能性があります。
このことから,ERPを日本の商慣習に合わないと批判する前に,決済のルールを変える可能性を検討してみてもいいかもしれません。手形をなくそうとしている企業にとって手形機能をもたないERPは,いいチャンスと捉える経理部があってもよいでしょう。
1998年4月の外為法の改正により,外貨のネッティングが自由にできるようになりました。為替リスクのコントロールは,通貨別の持ち高表をつくるところから始まります。グローバル企業は,この機能をひとつに統合し全世界の通貨のネッティングを自前で行ないます。
多数の通貨を扱う銀行や証券会社では,多通貨会計が合っています。
多通貨会計では,為替差益がリアルタイムで把握されるため,会計上の実現,未実現の概念が希薄になりますが,マネーの世界では,そもそも実現/未実現の意味合いは,だんだん薄れてきているのではないでしょうか?マネーは,今日の世界では,仮想マネーであり,仮想マネーがひとつの国を破産させる世の中なのですから。
キャッシュフロー経営の視点では,キャッシュフローを会計と結合させる視点が必要です。短期の資金繰りと長期の資金繰りおよびキャシュフロー計算書をうまくシステム化することで,総合的なキャシュフロー経営の仕組みをつくることができます。キャシュフロー経営の目的は,未来志向の経営をおこなう点にあり,キャシュフロー計算書を,予測と実際の差異分析にも使用すべきです。
先に記したようにM&Aの意思決定等にもキャシュフロー・ベースの経済計算が役に立ちます。キャシュフローは,会計に経済計算を持ち込み易くするツールとして,これからのリスクや時間価値のコントロールに利用されていくでしょう。
売掛金管理プロセスは,受注からの販売プロセスと通しで改善していくべきです。販売管理プロセスにおいては売掛金管理は後工程で全体の効率を考えなければ改善の効果は得られません。
顧客の多い会社の売掛金の管理が大変な理由のひとつに,請求書と入金の消し込みの問題があります。
まず全銀協フォーマットが振込人の名前をカタカナでしか登録できないため,入金と顧客勘定との照会すらできないケースがあります。現実は,更に複雑で,親会社が子会社の分を支払ったり,同一会社でも決済は事業部単位で行なう会社があったりで,顧客と入金の照合のためのルールベースのシステムをつくっている会社もあります。
つぎに,業務を簡略化しようと編み出した月次締め/合計請求書と入金が一致しないケースがあるため,結局個別納品書単位での消し込みが要求されます。結局,合計請求書では消し込めないため,個別納品書までブレークダウンできるシステムが要求されます。
ある銀行では,空き番号を利用してこれを特定していくシステムをつくって売っていますが,できたらこのようなフォーマットの問題はEDIと同じで,日本国の競争優位という観点から標準化して欲しい領域です。
この問題を更に複雑にしているのが,手形決済で,売掛金の消し込みは,現金,銀行振込,相殺以外に手形があり,その手形の管理が派生し,収入印紙の問題が更に絡んでくるのです。そして,振込手数料の分だけ入金金額と帳簿金額は不一致。
こうして,売掛金の管理は複雑怪奇になっていきます。
「人に笑われないアイデアは独創的とはいえない」というので,ここではこんなアイデアを考えてみましょう。
1 顧客を減らす
顧客のうち,企業に利益をもたらす顧客は20%である。他の80%の顧客は捨てる(代理店にまかせる)。
2 売掛金を減らす
現金商売,自動引き落とし,売掛金のファクタリング,代理店
3 請求書を発行しない
請求書を発行しなければ,消し込みもいらない。入金は古いものから順にくると仮定する。(年齢調べ表の代わりに売掛金回転期間管理と納品書のクレーム管理および顧客からの支払明細書管理をする)
4 手形を廃止する
手形は,グローバル・スタンダードではない。無くすことが可能なら廃止する。
ちなみに,以上のビジネスセンスを疑われるようなアイデアは,すべて実際の事例です。売掛金の管理は,販売管理プロセスの後工程であり,経理の視点だけでなく,総合的に考える必要があります。
買掛金管理プロセスは,発注からの購買管理プロセスと通しで改善していきましょう。
購買プロセスには,原材料の購買とその他の一般購買があります。一般購買のうち従業員の仮払金精算,費用精算等は,発生現場での処理が有効です。情報技術としては,ワークフローやWebの活用が考えられます。
買掛金管理には,消し込みがないため売掛金管理ほど複雑にはならないのが一般的です。
購買管理という側面では,供給業者とのサプライチェーンを,如何に低コストで速やかに高品質で行なうかが焦点です。供給業者選定の手続き,発注の手続き,検収から支払の流れのプロセスを検討して,最適化を図る方法がプロセス革新(イデアビジネスインテリジェンスのセミナー)の例で説明されています。
支払管理という側面では,買掛金管理をおこなう担当が資金管理を行なうことがよくあります。資金管理については,前述したように資金繰りをフローだけでなく,債権/債務や在庫の残高や回転期間の管理を通じて受身の資金繰りから積極的な資金管理へと展開させることが,キャッシュフロー経営の第1歩と思われます。
原価計算は,ERPでは製造プロセスにビルトインされています。ERPでの原価計算は,部品表(Bill
of Material)を基にした標準原価計算となります。この部品表を基にした標準原価計算という構造は,日本の会計ルールである原価計算基準が想定していなかった構造だったと思われます。原価計算基準での標準は,標準材料費といった会計科目別の標準であり,製品毎の標準原価とは違う切り口であったようです。会計原価計算の文献では,原価計算はあたかも,たな資産を計算するためのしくみで,結果として売上原価が計算されるかのように説明されます。
ERPの標準原価計算は,切り口が製品別であるために,情報システムとしては汎用性をもつ優れたアーキテクチャーですが,原価差額が大きい一般的会社では,原価差額と(先入先出法や平均法等といった)たな資産の評価方法という2点の十分な検討が必須です。この検討の不充分さがERPを上手に使った原価計算システムが未だに構築されていない理由だと思われます。
原価計算は,実際原価計算から標準原価計算へと進歩していったように説明されますが,本当に標準原価が進歩した原価計算であるのかは疑問です。むしろ多くの会社では計算を迅速に行なうための予定価格という側面が強いのではないかと思われます。経営状況が変わる現代では,標準より改善や革新すなわち,標準との原価差異より原価低減率や生産性の伸び率の方が経営上重要なのではないかと思われるからです。標準管理は,工場内での技術的問題に即して一般化より,目的に合わせた形で適用した方がよいような気がします。
原価は計算するものではなく,作るものだという考え方もあります。
原価は,意思決定と活動の結果数値です。原価を変えるためには,意思決定と活動を変える必要があります。原価をドライバーを媒介にして活動に結びつけた手法がABC(Activity
Based Costing)です。ABCの考え方は,合理的であり,かつ広い応用範囲をもっています。
サプライチェーンマネジメントの会計理論として引き合いにだされるスループット会計では,在庫の価値が否定されます。確かに在庫が価値を持つのはそれが必ず売れるという暗黙の前提があり,それは今日の経営状況では必ずしも確実とはいえません。さらに,資金を寝かせているという経済上の価値破壊をもたらしている面もあります。
予測が完全なら,在庫は不必要です。ここから,ディマンドマネジメントが生まれました。しかし,予測は完全ではありません。よって,次に,在庫を持たない販売形態が模索されます。受注生産です。受注してから顧客の手元に届くまでのサイクルタイムの圧縮は,見込み生産から受注生産への道を開きました。古くは自動車産業,そして現在ではパソコン等の電子機器がこの形態をとりつつあります。
完全に受注生産にできない会社でも,部品の標準化と構成点数の絞込みをして,価値多様社会への対応を検討しています。
在庫を持つことのコストを計算しましょう。
この方法のひとつにEVAが使えます。キャッシュフロー指標は在庫の不経済性を反映します。その上で,さらに在庫を増やす原因を潰していきましょう。
ABCは,ここでも有用です。物流コストの発生原因をドライバーとして設定し,このドライバーへの影響度合いによって売値を連動させる(一括注文の方を多頻度注文より原価分だけ安くする等)ことが考えられます。
税効果会計の導入で,会計上の利益と税金の関係はわかりやすくなりましたが,税額計算はまだわかりにくいことに変わりはありません。税金計算を見えやすくするために税務パッケージの利用を考えましょう。どの項目が税金に影響を与えるかをシミュレーションすることが出来るでしょう。
キャッシュフロー経営においては,税効果は見えにくくなります。しかし,日本の税率は40%であり,経営意思決定においても税効果を考慮しないのは危険です。税金の計算メカニズムをモデル化しておいて,そのテンプレートを使って投資意思決定をするとよいでしょう。
海外展開している会社にとっては,国際税務戦略を検討する余地があります。イデア国際会計事務所のホームページにはアジアの税制の概要が載っています。
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